ほんの少し満たされた湖北釣行の続編。
もうひとつの、想いを遂げようと車を走らせた。
かねてより照準を合わせておいたあの場所へ。
でも、実際のところは、やってみなければ分からないのだが。
竿を振ることも無く、今シーズンを終えそうな気がしていたが、
これも、自然の流れ。と、少々言い訳がましく。
偶然か、必然か、その時はやって来る。
車を止めて、手ぶらで散策。そう、いつものように。
そんなふうに、新たなる扉を開ける鍵を探すため、
こんなことをいったい何度繰り返してきたことか・・・・・・
もちろん、先人達に比べると、へでもない数、距離なのだけれど・・・・・
そんな私の視界の末端。
水面が割れた瞬間を、珍しくも見逃さなかった。
明らかに、これまで釣り上げた魚とは違うその雰囲気に、気持ちが高ぶる。
少し気持ちを落ち着かせながら、車まで戻る。
鍵を探す散策は中断され、何時しかタックルの準備に取り掛かる。
紐と呼んでおかしくないその釣り糸を、
幾度と無く、結んでは解きを繰り返し練習したノットで結い、
いよいよ、初めて、投げることを決めた。
そう、今日の目的は、このタックルで投げること。
投げるだけであれば、別に、先程まで訪れていた琵琶湖でも良かったのだが、
実際そのつもりだったのだけれど・・・・・
そこは、やはり気持ちの持ちようというものが存在して。
先人達の言葉や教え、願いを繰り返し、頭に叩き込んだ多くの事柄。
自身、頭では理解し、繰り返し反芻し、準備も整えた。
あとは、現場で、多くを学び、考え、自らの身にする他は無い。
初めて現場において手にした、その竿は、
節操無く、様々な釣りを楽しむ私にとって、
これまでの、どの竿よりも重く、一本芯が通っている。
その重さが、この釣りを始める心持ちの重さであり、
一本の芯の通った、潔い気持ちを生み出してくれる気がする。
そんなタックルを片手に、水辺へ向かう高揚感。
背の丈ほどある、葦を掻き分け水辺にそっと近寄った。
目前に広がる、植物に覆われた水辺。
生涯、忘れることの出来ない、一線を越える一投目。
その、重い棒を振りかざした。
・・・・・・・
見事に、身体が順応していない。
滑稽なその立ち振る舞いに、辺りには誰もいないが恥ずかしい。
タックルの、重さ、硬さ、長さ。リールの大きさや、ラインの太さ・・・・・
どれをとっても、これまでの釣りとは一線を画す、別次元。
少々戸惑いながらの悪戦苦闘。
難儀な釣りに足を踏み入れてしまったが、気持ちは更に高ぶっていく。
少しずつ、初めてのタックルに自身を合わせていくと、
次なる問いは、ルアーの動き。
はてはて、どう動かせば良いのやら、暗中模索のはじまり。
全くもって、なってはいないルアーの動きながら、
静と動、ポイントの濃度、周囲の状況などを自分なりに組み立ててみる。
そんなふうに、困惑を楽しんでいると・・・・・・
バフッ!
いきなり、である。
自分自身、信じられない事象・・・・・
分かりやすい言葉を使うと、
目が点。そのものの状況。
一瞬固まった私の身体とは裏腹に、
チキンなハートは最高潮。
もう、充分。
タックルになれるための、ものの試し。
そんな、安易な気持ちだけで水際に立ったわけではないが、まさかの捕食。
もちろん、アタックのみに終ったが、その、感動的な一瞬に心が奪われた。
我に返り、抑え切れない欲望のままにもう数投。
パフンッ!
豪快な捕食音が響いた瞬間、ルアーが空中に舞う。
・・・・・・・
一度ならず、二度までも。
まさに、感無量。
多くの先人達が、日々奮闘し、
守ろうとしている現状と、築こうとしている未来。
この瞬間、未熟ながらもその理由の片鱗を垣間見、感じた気がした。
既に気持ちは十二分に満たされ、その場から離れた。
後は、竿を置き、そのフィールドをひと通り見て回る、散策に時間を費やし納竿。
短時間ではあるけれど、初めての試み。
右も左も分からず、見よう見真似の暗中模索。
そんな状況ながら、憧れの魚からのメッセージ。
正直、響いた。
釣りで感動することに久しい昨今。
無理やり精神性を説き、心の充足をその部分で求め、
補うことが多くなってきつつある。
が、純粋に釣りの感動がそこにあった。
新たなる扉。既に開かれ、その一歩を踏み出した。
これからも、多くを学び、多くを感じ、
この、大切なモノを守り、築いてゆきたいと、そう想う。