父と子と釣りと
サビキで釣る、(豆)アジ。
釣りを知らない方々や、女性、子供にとって、
最も簡単に魚を手にすることが出来、愉しむことのできる釣りのひとつ。
狙う魚はアジ(豆~小アジ)だけど、それだけでなく、
小さいながらも真鯛や黒鯛、石鯛をはじめ、他の様々な魚たちとも出逢え、
また、小アジは調理も簡単、食べて美味しい。
そんなサビキでの豆アジ釣りだが・・・・・
依然として餌釣りビギナーの私にとって、意外に奥深いものもあると感じていたり。
どんな釣りでも同じように、ポイント選びがとても大切なこと。
季節や時合いも もちろん同様。
また、狙う魚の棚(泳層)や、他の魚との競合により、
そんな簡単なサビキ釣りでも、思うようにいかないことも。
そして、釣具に関しては、サビキ仕掛けの大きさ(号数)などによっては、
いやいや悲しい思いをしたことも。
この頃は、コマセのアミエビと針の大きさを合わせるなど、息子流の発見もあったり。
そんな、ポイントや、釣期、仕掛けなんかも、
これまで、息子との試行錯誤で愉しくやってきた。
今回の釣行も、本来11月の初旬を予定していたのは、
そんな二人の愉しい経験から。
が、やはり、少々時期が遅かったのか・・・・・
釣り始めた息子がまず手にしたのはグレ(メジナ)。
足元を見ると、コマセに集まる魚の姿にアジは無く。
それでも、久しぶりに魚の引きを愉しみ、こぼれる笑顔は一丁前の釣り人のそれ。
一投ごとに、あれやこれやと試行錯誤が覗えるのが頼もしくもあり。
そんな兄を尻目に、父のサポートを受けながらも、
おにぎりを頬張り、本命のアジを釣ってしまうのは妹。
このへん、小さくとも女子。なんとも、ちゃっかりしている。
普段は、お人形やぬいぐるみをかわいがる娘も、
魚のお目目が「かわいい」らしく、小さな手で優しく魚を扱ってくれる。
そんなこんなをしているうちに、
兄の竿が、曲がる。
これまでの小魚とは少し違い、グングンッと小気味よく。
手助けを求める視線を跳ね除け、腕を組み、ただ見守るに徹する。
何とか奮闘の末、獲った魚はやっぱりグレだが、この突堤にしては良いサイズ。
少し照れを感じる歳に差し掛かりながらも、ご満悦の一魚にこぼれる笑顔。
優しくリリースする時に「ありがと」と掛けた一声を父は聞き逃さない。
アジがあまり釣れず、グレと戯れている時間も過ぎ去り、
表層に回り始めたのは、秋よりひと回り大きくなったサヨリ。
すかさず狙いを定め、テンポよくサヨリを掛ける兄の姿はさすがだが、
いやいやバラシが多く、変なところで父に似る。
数匹をキープした後、サヨリの回遊も徐々に減り、
そこでようやく 父である私も少し竿を握ることに。
兄同様に居残るサヨリをバラシながらも、棚を探り、アジの居場所を探り当てると、
これまでの不釣が嘘のように、連投でアジを釣り上げ、面目を保つ。
父の威厳よろしく、二言三言アドバイスを。
少しアジが回ってきた様子で、ここからは、
飽きない程度に、ポツリポツリと二本の竿が交互に震える。
が、全盛期のように、鈴なりに、二連、三連とはいかず、単発。
サイズ的には、豆アジよりも少しばかり大きくはあるのだけれど。
それでも少しずつクーラーボックスは賑やかに。
愉しく緩やかに時間は流れ、曇天ながらも穏やかな気温。
元気にはしゃぐ子供達を見ながら、釣りの持つ違った愉しみを感じ。
徐々に少なくなったコマセを見、
まだまだ釣り足りない兄は、餌が勿体無いと、
いつの間にか、餌を使わず、仕掛けのみでキャストを繰り返し、
効率が悪いながらも、アジを釣り上げ、それに夢中。
妹は、残ったコマセでおままごとをはじめ、
てんやわんやの賑やかな突堤。
でも、それまでの曇天から、雲が切れ陽が射し、一瞬海が青くなる瞬間、
どちらからともなく、二人が声をそろえて
「きっれ~い!」と。
釣りだけでなく、そんな釣りのできる環境を愉しむわが子に感心。
初冬の日暮れは早い。
16:00を過ぎる頃には既に陽は傾き、
美しい夕日に、見惚れる父と子。
空になったペットボトル越しに夕日を見ると、
残った水滴に光が反射し、更にキラキラするらしく、
交互に夕日に感嘆している。
そんな二人を尻目に、後片付けをしながら、
少し残ったコマセをどうするのかと尋ねてみると、
海の魚にあげるのだと。
釣り持ち帰ることで、減ってしまった海の魚が、また増えるようにとのこと。
後片付けを手伝い、身の回りのゴミは自分達が出したものでなくとも、
抵抗無くゴミ袋に詰め込む姿。
言わずとも、最後に足元に水を流し、きれいに始末する姿。
算数や、国語、英語まで。行儀や礼儀、作法などその他諸々・・・・
覚えなくてはいけないことが、いっぱい いっぱいあって、
どれもきっと、これから大きくなる上で大事なことなんだろうけど、
他にも もっと大切なこともあって、
少しはそんなことが分ってくれているのかなと。
釣期のよい時であれば、100匹/時間はくだらないこの豆アジ釣り。
生憎、今日の釣果は芳しくなく、3時間足らずで、40に届かず。
釣り足りない気持ちもあるようだけど、食卓を賑やかにする分には事足りる。
釣りそのものは充分に愉しめ、満足した笑顔を向ける二人。
職業や、置かれた状況、境遇によって 人それぞれに違うかもしれないが、
父として、子に教えること、教えたいことは山ほどあり、
釣りを愉しむ、釣り人としても、
子に教えること、教えたいこともいっぱいあって、時には教わることもある。
そんな、かけがえのない、父と子と釣りと。
笑顔に溢れる、釣り遊び。
釣りの本質は、この笑顔なのかもしれない。
日も暮れ、家路をたどる車中。
バックシートから、スースー(グゥーグゥー)と聞こえる寝息。
ルームミラー越しに見る、肩を寄せあい眠る兄妹。
この上ない、安心感と幸福感に包まれながら、
少し早いクリスマスプレゼントな一日を、
大人の私の方が貰ったような、そんな気がした。
数や、大きさにとらわれず、ただ純粋に釣りを愉しみ、
釣った喜びは、人を笑顔に。
釣りだけでなく、他の様々なものにも 純粋に向けられる視線。
普段の自身の釣りでは、決して感じ得ることのない、
幸福感に、感無量。
歳を重ねたいつの日か、
ハンチング帽を被った、とある親子のように、
琵琶湖の浜で、二人して魚を釣り上げ、
めいっぱいの笑顔でいられる事を夢想する。