竿の振れない師走、週末の土曜日。
追われるように、仕事の打ち合わせで、朝から大阪へ。
難なく午前中で仕事を終えることが出来、見上げると、晴れ渡る初冬の青空。
急ぎ帰宅し、どこかの水辺へ・・・・・
との想いもあったのだが、向った先は、
翌日に伺う予定をしていた、
第15回 サカナヘンノヒトタチ展2011
と、その前に。
かつて修行時代を過ごした大阪。
当時のおぼろげな記憶を辿り、少し遠回り。
大阪の街中、心斎橋エリアの外れにある一軒の商屋。
きくや筆本舗。
雑多なビルが乱立する中、ひっそりと佇む商家の店構えが今も残る。
創業は明治18年だとか。
「
じゅん屋」のじゅん氏が出展されているということで、
向う、サカナヘンノヒトタチ展2011。
この作品展を好機に、「書」の道に衝撃を受けた氏への手土産にと。
生憎、店はシャッターが半分下り、閉店の様相ながら、
店先から電話を入れると、気持ちよくシャッターが上がる。
「書」の道の嗜みなど無く、逐一説明を求める私に対し、
店の主人には、親切丁寧に対応をして頂き、
挙句の果てには、店奥の小上がりで、お茶まで頂きあれやこれやと。
同じ タケカンムリ の 竿と筆。
どこか、釣具屋に並ぶ竿を選ぶような感覚。
そう、
「弘法筆を選ばず」、「くろぼう筆を選ぶ」。
・・・・・・・・・
店主との愉しい会話の中、決めかねている私に、店主から一本の衝撃。
オロンピー 三号 幽渓
きくや造
他の筆と一線を画した朱塗りが渋い、
その名「幽渓」。
渓流での釣りを、三本の指に入る 好みの釣りだと称する氏に相応しいと。
写真で見るだけでは、まさに和竿の趣きある、一点もの。
時に、竿を筆に持ち替え、釣腕さながらに、幽玄なる「書」を期待して。
少々長居が過ぎる、閉店後の困った客は、
良き筆、良き店との出会いに意気揚々と、
この一本を手にようやく退店、一路 作品展へと歩を進める。
会場「g+concept」
少々怪しげ感漂う雑居ビルの4階。
エレベーターを降りると目の前に出展者の作品「潮かつお」が迎えてくれた。
更に一歩足を踏み入れると、不在の心配は安堵に、じゅん氏の姿。
先日の深海魚釣行の非礼を詫び、再会を喜ぶ。
「来てくれると思っていたよ。」との氏の言葉が、ことさら嬉しく。
まずは作品を一巡。
躍動感溢れる写真や、幻想的な画をはじめ、
釣行写真や記録、美しき書や形創られた釣具や作品。
芸術感溢れる作品や、手作り感に温かさ感じる作品たち。
どれもこれも、作者の心が、それぞれに表現された見所に満ちている。
そして、氏の作品は「本」。
氏の心に残る釣行が、ブログ記事をベースに加筆修正、書き下ろされ、
未見の写真も挿入された圧巻の二冊。
少し走り読みさせて頂き、思わず、
「これ売ってんの?」との愚問に、氏を少々困惑させるほど。
書棚に並べておきたいと思った来場者は少なくないはず。
また、その二冊と共に、思い出の魚たちを釣り上げた氏の写真をまとめたものが、
オカバコ(タックルボックス)に、
ルアーやタックルではなく、「思い出」として納められているのが印象的。
仕事柄、個展や美術展に足を運ぶことも少なくないのだが、
至ってそういう作品展では、気難しい表情で、
構図がどうだの、色使いがどうだの、形而上学的に云々・・・・・・
と、ある種の緊張がいつも隣り合わせなのだけど、
このサカナヘンノヒトタチ展とその各作品においては、
釣りに例えるなら、
魚を掛けた緊張から、釣り上げ、解き放たれたかのような、
釣った後の喜びや笑顔に溢れ、和やかで、緩やか。
仕事や遊びを、魚を通じて、自然そのものを大切にする、
そんなサカナヘンノヒトタチの気持ちが溢れているよう。
ちょうど作品を一巡した頃に訪れた、新たなる出逢い。
ブログ「
MIDNIGHT EXPRESS-active!-」のueda氏が来場。
幾度か、ブログでのコメントで交流はあったのだが、お会いするのは初めて。
互いに「近々琵琶湖でお会いできるという予感」があったことに、驚きながらも喜び、
水辺で糸垂れる釣人が、街中のギャラリーで出逢うという、不思議な状況の中、
じゅん氏のお陰も相まって、
機知に富む氏との会話は、初めてお会いしたとは思えないほどに愉しく、尽きない。
ぜひとも、またゆっくりとお逢い出来るのを楽しみにしているところ。
そして、もうひとつ、再会なる出逢いが。
作品展の主催者の一人、啼魚氏。
夏の終わりの「
sum camp」で始めてお逢いして以来の再会。
あまりお話の出来なかったsum campと比べ、今回少しお話が出来、
おかげで、来年2012年の楽しみがひとつ増えた。
また、氏は「カヤックで釣をする人」。
この秋、初めてカヤックでの釣りを経験した私としては、
是非ともいつの日か ご一緒に浮き漕ぎく、また、色々とお話が伺えればと。
Photo: じゅん氏
そんな、サカナヘンノヒトタチ展2011
作品展というより、サロンといった様相の和やかな空間。
趣味として、仕事として、釣りとして、
日常がちょっとだけ魚の方に偏ってしまった方々の
感性や想いに溢れており、
入れ替わり、立ち替わり訪れる、
サカナヘンノヒトタチ展を愉しむヒトタチもまた
サカナヘンノヒトタチよろしく、あちらこちらでアツい会話が弾む。
この愉しい雰囲気は、
根本にある、魚という自然なモノを通した、
釣り遊びの愉しみ、食の愉しみ、モノヅクリの愉しみに在るのだと感じる。
そんな居心地の良い空間、作品、会話が愉しく、少々長居。
少し後ろ髪を引かれながら、夕刻、作品展を後に。
今回第15回を迎えられたらこの作品展、今後の更なる展開が愉しみ。
新たな、人や作品との出逢いや再会。
これもひとえに、釣りのお陰、人のお陰。
そんな、様々なものによって支えられたこの一年もあとわずか。
陽が暮れ、寒さが身に沁みる中、
心はホッと温かくなる、そんな作品展に感謝。